好きな句との出会い
人それゝ書を読んでゐる良夜かな 山口青邨
秋の暮大魚の骨を海が引く 西東三鬼
よろこべばしきりに落つる木の実かな 富安風生
名月や今宵生るゝ子もあらん 伊藤信徳
石山の石より白し秋の風 松を芭蕉
わがいのち菊にむかひてしづかなる 水原秋桜子
月の夜や石に出て鳴くきりぎりす 千代女
小仏の窟おんおんと秋怒濤 野沢節子
鶏頭の喉のあたりの種をとる 赤松薫子
わしづかみして鶏頭の種をとる 岡本高明
コスモスや無人駅にもある分かれ 溝口麗子
行きすぎて金木犀は風の中 木村敏男
烏瓜引けばこぞりて山の音 名倉光子
子にうすれゆく方言よ蕎麦の花 神原教江
木犀の夜を来る兄の下駄の音 古谷知子
麓まで半日かかる冬すみれ 橋 閒石
夫留守の気ままな刻を石蕗の花 早川佳江
廃校の一隅を守る寒桜 木村千枝子
たましひのしづかにうつる菊見かな 飯田蛇笏
わがいのち菊にむかひてしづかなる 水原秋桜子
長雨のふるだけ降るや赤のまゝ 中村汀女
朝顔や一輪深いき淵にいろ 蕪村
鬼灯を地にちかぢかと提(さ)げ帰る 山口誓子
鶏頭に秋の日のいろきまりけり 久保田万太郎
露草の露千万の瞳かな 富安風生
風強しそれよりつよし秋桜 中嶋秀子
海岸に抜ける寺道金木犀 川崎陽子
茶の花や働くこゑのちらばりて 大野林火
海に出て木枯帰るところなし 山口誓子
永観堂観ずに紅葉を言ふ勿れ 菲菲路
やや寒し朝の廊下の軋(きし)む音 則子
死に水を取りし手に杖秋遍路 恒雄
立冬の扉開ければ誰もいず 田代草猫
大空のあくなく晴れし師走かな 久保田万太郎
寒月や僧に行き合ふ橋の上 蕪村
早春や道の左右に潮満ちて 石田波郷
掃きよせてひとつ拾ふや落椿 黒田こよみ
いぬふぐり梅見の人に踏まれける 吉田たまこ
紅梅に雪のふる日や茶のけいこ 永井荷風
声掛けて水やる鉢や薔薇芽ぶく 片山草香
柊の花一本の香かな 高野素十
満開にして淋しさや寒桜 高浜虚子
家遠し枯木のもとの夕けぶり 召波
水底の岩に落つく木の葉かな 丈草
アロエ咲き丸太づくりの喫茶店 新田勝江
大鉢の割れてアロエの花盛ん 野木藤子
なほ燃ゆる色を尽くして冬紅葉 稲畑汀子
ながながと川一筋や雪の原 凡兆
遠山に日の当たりた枯野かな 高浜虚子
帰らねばならぬ蜜柑をむいてゐる 加倉井秋を
鶏頭の種採り地へもこぼしおく 皆吉爽雨
地へもこぼしおくという心やりが、この句の主眼だ。
指先にのせても蝌蚪の尾を振りて 京極杞杞陽
木の葉ふりやまず いそぐな いそぐなよ 加藤楸邨
子にみやげなき秋の夜の肩ぐるま 能村登四郎
身を裂いて咲く朝顔のありにけり 能村登四郎
焚かれゆくけさの落葉のなまがはき 鈴木しづ子
蝌蚪乱れ一大交響楽おこる 野見山朱鳥
いつまでもひとつ年上紺浴衣 杉本零
ものの種にぎればいのちひしめける 日野草城
さみだれのあまだればかり浮御堂 阿波野青畝
蟻地獄みな生きてゐる伽藍かな 阿波野青畝
考えても疲るゝばかり曼殊沙華 星野立子
雛飾りつゝふと命惜しきかな 星野立子
夏布団ふはりとかかる骨の上 日野草城
うしろから秋風来たり草の中 渡辺水巴
麦笛を吹く子に雲の美しき 原石鼎
ぬかづけばわれも善女や仏生会 杉田久女
とっぷりと後ろ暮れゐし焚火かな 松本たかし
ボート寄せミモザの花と確かめる 晋
咲くだけの光あつめて節分草 高橋悦男
花めづるいつかひとりとなるふたり 浩章
今ひらく静けさ集め朴の花 松本敏子
捩花はねぢれて咲いて素直なり 青柳
紫も白もおほらか花菖蒲 国義
いのちなき軽さに吹かれ蛇の衣 水鳥
殆ど(ほとんど)は柘榴となれず掃かれをり 聡
「また」と言い「また」と返されゆやけ空 忠文
プレバト作品
花疲臓腑に溶けるチョコレート パンサー向井
やりくりも万策尽きて梅雨ごもり 加藤登紀子